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2020.10.16
次月の今頃は結果が出ているだろう。その結果次第では、話題から消えていくだろうから、今書いておくことにする。
アメリカ大統領選挙（他国の話だけれど、今は考えただけでうんざりする）の民主党副大統領候補、カマラ・ハリス氏の母親はタミル人だ。
カマラ・ハリスは当初、民主党の大統領候補に名乗りをあげた。まずその段階で「両親はジャマイカ人とインド人」と紹介された。ハリスは洋風な苗字だが、カマラはインド名ではポピュラーな「蓮」なんだな、と認識した。旧英領カリブ海諸国（クリケットの国際代表チーム、West Indiesを構成する国々）にはインド人の移民の子孫が数多く住むので、現地にはハリス夫妻のようなカップルが普通にいる。ニューヨークには、西インド諸島系移民が集中して住むエリアもある。この周辺に住む限り、彼らは全体的に見れば決して羽振りの良いマイノリティではない。カマラ・ハリスの両親は、そうしたジャマイカからアメリカに移民してきた一組なのだろうと、漠然と想像した。付け加えれば、アメリカの「純」インド系移民コミュニティは、インド系が非インド系と結婚したカップル（特に配偶者が有色人種の）やその子供を見下し、半ば排除してきた。西インド諸島側の血が黒人やクレオールであること、アメリカでの成功度、そうしたマイノリティとしての格の違いが、そうさせるのだろう。
カマラ・ハリスは大統領候補選からは早々に撤退したが、堅実な経歴と女性という点を買われ、バイデン大統領候補の副大統領候補（アメリカではランニング・メイトと言う）に選ばれた。ここでハリスの経歴を再確認すると、私の想像が間違っていたことがわかった。ハリス氏の両親、特に母親は娘以上の強者、だったかもしれない（自分の母親とほぼ同年齢であることから、その印象はさらに強い）。この母上はすでに故人で、今となっては実際の人となりを確かめることができないのは残念だが。
彼女はシャマラ・ゴーパーランとして、植民地インドのマドラスに生まれた。インドではデリー大学で学び、アメリカで生物科学の研究者になった。インド独立から間もないインドから19才でアメリカに渡り、数年後には黒人解放運動の集会で知り合ったジャマイカ人留学生のハリス氏（後に学者として成功している）と結婚し、カマラとその妹を生み、博士号を取得し、娘を引き取って離婚している。
繰り返しになるが私の母が結婚し、二人の娘を生み、子どもたちが丈夫でなかったことや姑と同居していたことから、基本的に家と家族のために日々を過ごしていた母の年齢と年代がほぼ重なるので、この人の人生の波乱万丈をひしひしと感じる（本人にはそれほどのことでは無かったかもしれないが）。
カマラ・ハリスが副大統領候補になった当時、タミル・ナードゥの新聞に、シャマラ・ゴーパーランの父、すなわちカマラの祖父とその出身地のことが書かれていた。
Ｐ.Ｖ.ゴーパーランは、20世紀初頭に、当時はマドラス州だったタンジョール地方の小村に生まれ、植民地官僚になって、運輸省の道路管理のような専門家としてインド各地に赴任した。独立後はインド政府に移管された同等の部署に移り、相当の高官職まで昇りつめた。ベテラン官僚であった1960年代には、アフリカ諸国の独立の混乱期に生じた難民の救援事業のインド代表責任者として現地に派遣されている。タミルの小村の伝統的なバラモンの出身であれば、この時代にこの経歴はまず大出世だったと言ってよいだろう。
娘のシャマラにはデリー大学で家政学を学ばせた。いずれ家庭を持つ女の子には最適だろうと考えたという。当時、娘を大学にやるようなインドの父親はそうざらにはいなかったが、それでも当時の父親の考えることはそこまでだった。だが、シャマラはもっと別のことが学びたかった。親にはまともに相談もせず、アメリカの大学院に出願し合格する。政府高官とはいえ、アメリカの大学院の学費を出すことは一家にとって楽なことではなかったが、両親は結果を出した娘をアメリカに送り出した。詳しいことは判らないが、娘がアメリカで父親にとっては反政府活動のような運動に関わり、ジャマイカ人と結婚したことも、彼のような出自、経歴の者にとっては決して当たり前ではなかっただろう。しかし結果として、ハリス夫妻は子供を連れてアフリカで任務に就いていた父に会いに行き、その後に離婚したシャマラはカマラと下の娘を連れ、度々マドラスにあった実家に帰省している。
Ｐ.Ｖ.ゴーパーラン氏の出身地は今でも村、という規模の場所である。村には親族がいて彼は折があると戻って来ていたという。シャマラがアメリカに旅立つ前、村の寺で道中の無事を祈願したかもしれない。インドに「帰省」した孫たちが「お宮参り」をしたかもしれない。ゴーパーラン氏亡き後も、2009年にシャマラがアメリカで亡くなると、カマラがその遺灰を撒くためにインドを訪問している。
地図から察するに、村で一番大きなヒンドゥー寺院はマリアンマン寺院のようだ。母の供養のためにマリアンマン寺院を訪れるカマラを妄想する。今、マリアンマン寺院では連日カマラの当選祈願のプージャーが行われてる、かもしれないと妄想する。
