| Mariamma's Homepage（インド、南アジア総合情報） |
マリアンマのＨＰ
What's New
月刊『インド通信』
| 『インド通信』（インド、南アジア情報月刊誌） |
インド通信のＨＰと最新号情報
バックナンバーとホームページエッセイ
インド通信の催し物ガイド
インド通信の新刊情報（最新版）
新刊情報（バックナンバー）
インド通信バックナンバー
2010.4.1発行、第378号
インド在住の方々にはここ数日食傷気味の話題だと思うが、インドの女子テニ ス選手にして国民的アイドルのサニア・ミルザーが、クリケット選手でパキスタ ン代表チームの前キャプテンでもある、ソーハイブ・マリクと婚約した。この話、 印パのスター・アスリートどうしの婚約の事実だけでも話題性十分なのだが、当 事者のパーソナリティーや、とりまく周辺事情の数々がいずれも極めていわくあ り。インドで日々報道される内容はワイドショー並みの展開を見せている。
サニア・ミルザーは今年24歳か。スポーツ・ジャーナリストを親に持ち、今は インドIT産業の拠点として発展著しいハイデラバードで育ち、ジュニアの頃から 世界を舞台に頭角をあらわした。インドのテニス界は昔から世界レベルの選手を 輩出しているが、それはあくまで男子の話。このご時世になっても女子選手は多 くはない。サニアの成功は家庭環境が大きいと言えるだろう。彼女がイスラム教 徒であることもインパクトを大きくしている。世界ランキングを上昇し彼女の名 前が知られるようになると、素肌部分を大きく露出するテニスウエアが保守的な ムスリムの批判の的になる。しかし何とそこで、「サニアの活躍はインドの誇り である。彼女が第一線でプレーできるよう、服装を問題にしてはならない」とい う宗教令（ファトワ）が高位のイスラム指導者から出されるという異例の展開が あった（ただし普通のムスリム少女はみだりにサニアの服装を真似てはならない、 という断りがついていたそうである）。
サニアはインドのそれまでのスポーツ・ヒロインと比べて、ルックスも段違い に可愛い。映画女優を凌ぐ、インド史上初のスポーツ界出身のトップアイドル の登場である。さらに彼女は奔放な発言や行動で、しばしば物議や論争を引き起 こした。一日5回の祈りやプレーに差し支えない範囲での断食など、教義に敬虔 で貞淑なムスリムだと言われているが、セレブ扱いの影響か、本来そういう性格 なのか、傲慢な印象がつきまとうようになった。
ある時、日本のマスコミの人にサニアを紹介したら「インドのエリカ様ですね！」 と言われて、あー、そんな感じ、と膝を打ったが、階層社会のインドではセレブが 多少傲慢なのは当たり前とばかりに、日本ほどバッシングを受けていない。
サニアは以前から出身地の同じ若い実業家と婚約していた。異業種間ではある が若く美しいセレブどうしのカップル、さらに相手はサニアの幼馴染ということ で、広く祝福される婚約だった（まだ20代前半のサニアが選手キャリアをどうす るのかが論議になったが）。ところが今年早々、このカップルは破局する。いく らお金持ちとはいえ、セレブというには華やかさに欠けるタダの実業家という彼 氏に満足できなかった、という説があるが、新たな婚約発表はそれからわずか2 カ月ほどのことだった。
まずインド中を揺るがしたのは、インドの至宝がパキスタン人を選んだという 国辱的事態だったが、婚約破棄と速攻の新婚約に対しての、これが貞淑なムスリ ム娘のすることか？、セレブの感覚は一般人とは違う、という相克する反応も渦 巻いた。サニアはいつからソーハイブと交際していたのだ？、前の婚約破棄はソー ハイブとの関係から？、というワイドショー的詮索も始まる。一方で、サニアの 出身地ハイデラバードは歴史的にイスラム王侯が支配し由緒あるムスリム名家が 多く住んだ藩王国であるという背景から、印パ分離独立以降もハイデラバード出 身者が毎年何千人もパキスタン人と国際結婚しているというという事実が紹介さ れ、「サニアのケースも超セレブどうしという以外は何も珍しいことではない」 という指摘もなされた。
しかし、ここへ来て話はドロドロ愛憎系に転換しつつある。ソーハイブには結 婚歴があり、相手はやはりハイデラバード出身のインド人女性だという。ソーハ イブは結婚は事実だが、10年近く前のことで、すぐに破局し女性はインドに帰っ た、と認めたが、今度は女性本人が本名と素顔を出してインドメディアのインタ ビューに応じ、結婚は破綻しているがソーハイブが正式離婚に応じていないため、 現在も婚姻は有効で、サニアは第２夫人になる、と語った。すると今度はソーハ イブ側が、「中東で二人のインド人女性に出会い、その一人（スリムな美女）を 気に入り電話でやり取りを続けた。結婚を決めてパキスタンに招いたら、やって 来たのはもう一人（太った不美人）だった。電話の声と明らかに違うのに本人と 言い張った。私は騙されたのだから、結婚は無効。正式な離婚手続きも必要なかっ た」と反論。
イスラム法の観点で、電話での結婚申し込みや違う女性をパキスタンに招いて しまった時点で結婚が成立するか否か、が一つの焦点になっているが、そもそも こんなスキャンダルを隠していたソーハイブの人間性にも疑問符が付く（一方、 ソーハイブを「騙した」とされるハイデラバードの裕福な二人の女性＝実は姉妹、 の言い分と行動も妙だ...）。
しかし、4月の中旬にはソーハイブ一家がハイデラバードに来て（最大の難関で あるパキスタン人向けインド入国ビザは発給されたらしい）、結婚が成立する運 びになっている。イスラム教徒どうしなので、このまま「前妻」が居座っても重 婚は罪ではない。マスコミに出た「前妻」に対し、裏金で解決しようとしたとか、 脅迫行為があったとか。「前妻」は金目当てという批判に、「私の実家は大変裕 福。お金目当ての理由はない」と突っぱね、彼女の申し立てにより、ソーハイブ はハイデラバードの地元当局から詐欺、家庭内暴力等の容疑で捜査が始まった。
ワイドショー的なびっくりの事実公表や事態の展開が毎日のように続き、簡単 に収拾するようには見えない。女王様なサニアもまだ若い女性。こんな事態には それなりに動揺するのではないだろうかと想像できるが、それでも信念堅くこの 恋を貫くとしたら、パキスタンに己を売った非国民か、貞淑なムスリム娘ともあ ろう者か、セレブは感覚が一般人と違うか、現代インド女性が自ら選択した自 立か、どんな評価が下るのだろう。
目次
・南アジア地誌事典 第156回 「ドクターポーティの家 --- トリヴァンドラム」 （大隅 理恵）
・私だけのインド料理講座・中級編No.103第40回その4「Alubukhran Chatny（ドライプルーンのチャトニー）」 （由利三）
・「追悼 牧野財士先生」」 （竹内 啓二）
