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インド通信バックナンバー
2008.3.1発行、第353号
今から15年ほど前、当時家族が勉強していたアメリカの大学の同級生には何人
もインド人留学生がいた。その時以来、私は彼らのインドの実家によく泊めても
らっている。ある時、私が家族に合流するためにインドから直接アメリカへ行く
ことがあった。留学生の母親は、インド製の石鹸や歯磨きを私に託した。それは
結構な重さになった。留学生の妹は「お母さん、お姉ちゃんはアメリカにいるの
よ。石鹸だってシャンプーだってあっちの方がもっと良いのよ」とあきれ、私に
対しては申し訳ながった。私も何も言わなかったが苦笑した。その頃のインドの
石鹸はまだ少し油臭かったし、歯磨きチューブはラミネートではなかった（昔の
アルミチューブを若い方はご存じだろうか？）。しかもその石鹸はアメリカの会
社がインドで現地生産している品で、アメリカでも同質かもっと質の良いものが
手に入るはずだった。でも、母親は「そんなことわかってます。でも使い慣れた
ものが一番なのよ」と構わなかった。
15年、20年前のインドに行く時は、インスタント食品やトイレットロールまで
いろいろな日用品を持ち込むものだった。インドでは手に入らなかったり、質が
悪かったりしたのだ。私の場合、一般よりは現地品を使っていた方だと思うが、
どうしても用意しなくてはならいものもあった。その後、欧米に行くようになり、
スーパーやドラッグストアで日常品が簡単に現地調達できる気楽さに感動したも
のだった。
今はインドでもたいていのものが手に入る。意外な価格差があって、一時使用
なら日本から持って行った方が明らかに安いものもあるが、必需というと常備薬
くらいしか見当たらなくなった。ところが、融通の利かない年齢になったのか、
インドを含めた海外で手に入る日常品が気に入らない、勝手に合わないという感
覚を味わうようになった。今更ながらあの母親が言っていた「使い慣れたものが
いい」を実感するのだ。
何が気に入らないのか。例えばインドから持ち帰ったアーユルヴェーダ成分入
りのシャンプーがある。髪をしっとりさせる成分入りのはずなのに洗い上がりが
ゴワゴワになる。インド人の髪質向けなのかもしれない。インドで使った時はそ
れほど強く感じなかったから、日本の水で使うと、水質の関係で成分に変化が起
きるのかもしれない。
それからボトルである。髪を濡らしながら片手でボトルを押して液体を出すこ
とができない。ポンプ式ではないのだが、プラスチックのボトルの材質がペコペ
コであるうえ、シャンプー液の粘着度が高く、押してもボトルの口に降りて来な
い。仕方なく洗面台にボトルを逆さにキープしておいたら、キャップの隙間から
液が浸み出してきた。シャンプー成分が大事なのであって日本製は細部にこだわ
り過ぎだという意見もあるだろうが、きめ細かな使い勝手の良さに慣れてしまっ
た身にはイライラさせられる。もしこのシャンプーをそのまま日本でビジネスに
持ち込んだら、間違いなく消費者にソッポを向かれるだろう。
先日、大学を出てから20年ヨーロッパに暮らしていた友人に会った。あちらで
結婚しているのだ。日本との往来もあったし、あちらに日本人は少なくないそう
だが、二十歳そこそこで外国に行き、基本的に外国語の生活をしていたわけだ。
時間を過ごすうち、外見からはほとんど違和感はないが、大学卒くらいでは
身につかない社会に出て覚えるボキャブラリーや無意識に身につけている日本的
な人間関係の間の取り方、といったものに明らかに違うものを感じた。ご本人も
それを実感することがあると言っていた。
生まれてから20年ほど生きた故郷で「馴染んだものが一番いい」というのも真
実なら、その先の20年間を過ごす場所で身につくものもまた大きいのだ。「どこ
へ行っても変わらない、自分はコスモポリタンだから」などと言えるのは、実は
鈍感な人だったりするのではないだろうか。
目次
・「インド祭りから始まった物語」（河野 亮仙）
・India will Rock You! 第15回 「白人ブルースマンもインド音楽を取り入れた魅惑のサイケ前夜 〜 バタフィールド・ブルース・バンド」
（渡辺 玲）
・誰が世界を喜ばせるのか---南アジアの現代美術(9)「ブータンの屋根裏部屋の美術スタジオVAST」（五十嵐 理奈）
・私だけのインド料理講座 中級編 「Khara Bhat（野菜入り炊き込みご飯）、Sonth（タマリンド味のチャトニー）」
（由利 三）
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