「21世紀における日本と南アジア」記念切手
南アジア郵趣談義 by 黒崎 卓 （くろさき たかし）
＜India Stamp Collection: 13＞『インド通信』第283号、2002.5所収。以下は切手図版を追加した拡張版。
久しぶりの新ページです。去る4月12日に、日本の郵便局から「21世紀における日本と南アジア」にちなむ80円郵便切手4種類が発行されました。4種類を説明しましょう。日本・インド国交樹立50周年の記念切手はタージ・マハルを前面に描き、その背景に、廟の壁面に施された唐草文様のイメージを描いています。日本・パキスタン国交樹立50周年は、モエンジョ・ダローの遺跡のうち、城塞地区の風景のイメージを背景に描き、前面には、この遺跡からの出土品である｢神官王｣像を描いています。日本・スリランカ国交樹立50周年にちなんでは、古代都市シギリヤ遺跡から、シギリヤ岩山の風景のイメージを背景に描き、前面には、岩山側壁に描かれた天女の像「シギリヤ・レディ」を描いています。最後にバングラデシュは日本との国交樹立30周年記念で、パハールプルの仏教寺院遺跡から、サマプリマハ僧院・中央寺院の風景のイメージを背景に描き、前面には、寺院の基盤壁面に施された素焼き粘土のテラコッタ(陶器)飾板の彫刻を描いています。
すべて4カ国が誇る世界遺産ですからこの選択に異の唱えようがありませんが、宗派対立が激化するインドの図案がインド・イスラーム文化の象徴であり、パキスタンの図案がイスラーム化以前の歴史遺産であることは、なんとなく時期がら、政治的意図を感じてしまうのはうがちすぎ？
さて今回は筆者の南アジア郵趣コレクションから、4枚の切手と同じ題材を描いた本国産の切手からそれぞれ1枚を厳選して並べてみようという試み。まずはタージ・マハル。意外にタージを主題にしたインド切手は少なく、英領インド時代の1935年に発行されたジョージ5世銀婚式記念切手、1949年の普通切手、1967年の国際観光年記念切手の3種しかありません。この中では1949年のできが何といってもダントツ。当時の5ルピー切手というのは国内葉書料金の100倍以上に相当する超高額切手です。その額面にふさわしく、彫刻凹版による細かい画線がタージの魅力を引き立て、色合いも見事なクラシック切手です。独立後最初の普通切手に力を入れたインドの当時の雰囲気まで伝わってきます。
次はパキスタンのモエンジョ・ダロー。最初の登場は1963年の東西パキスタン(当時)の遺跡切手4種の中の1枚ですが、日本切手の図案と全く違うので却下。その後、UNESCOによるモエンジョ・ダロー遺跡保護キャンペーン切手がパキスタンで多く発行されましたが、その中で眼にとまったのがこの1枚。1976年に出され、城塞地区の風景と「神官王」像の両方が収められています。この「神官王」、インダス文明展で日本にやってきましたが写真で見ていたイメージと違ってとても小さいのに驚いた記憶があります。ちなみにこの切手はパキスタンでは最初の平行四辺形切手。今ではシール切手が増えたために日本でも変形切手は珍しくなくなりましたが、この時代に、しかもパキスタンというまともな郵政の国からこのような変形切手が出されたことも、郵趣家には思い出深い一枚です。
バングラデシュのパハールプル遺跡は、独立後の切手にも描かれているのですが、あいにくと筆者のコレクションに欠けているので、モエンジョ・ダローなどと一緒に出された1963年の1枚を紹介します。パハールプルが切手になったのはこれが最初。青色の凹版印刷がとても渋い切手です。当時の東パキスタンからは他にマイナマティ遺跡が描かれています。西パキスタンはモエンジョ・ダローとタクシラーが描かれました。全4種の切手セットは、旧パキスタン時代の最高傑作だと思います。ローマ字のPAKISTANの右側にベンガル文字でも国名が入っているところに歴史の変遷を感じます。
最後はシギリア。また独立以前の1枚になって恐縮ですが、1938年に発行された英領セイロンの普通切手に描かれたのが最初です。20世紀前半の英領植民地の多くで、外枠にイギリス国王、内側にその国の産物や遺跡を描き、凹版印刷した豪華な普通切手のシリーズが発行されました（ただし英領インドからは出ていません）。図案と印刷の美しさから収集家には現在でも人気があります。それがセイロンのこの切手です。
筆者の個人的好みで、パキスタン以外はすべて凹版印刷のクラシックな雰囲気の切手を選ぶ結果となりました。グラビアやオフセットによる多色刷りの最近の切手にはない深みを感じてもらえると幸いです。以下は、この話に出てきた『インド通信』には未掲載の切手画像の追加です。
まずはタージ・マハル。左が1935年発行、右が1967年発行です。
次はパキスタンのモエンジョ・ダロー関係の中から、好きなデザインを選びました。
そしてこれが1963年発行の旧パキスタン遺跡シリーズ全4種。揃えた美しさが伝わればいいのですが...
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